宝塚の民話・第2集の9

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ID番号 1003693 更新日  2014年11月10日

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泉流寺の隆元和尚(せんりゅうじのりゅうげんおしょう)

ねむり観音(かんのん)で知られた泉流寺に隆元和尚という僧がいました。その和尚さんは不思議(ふしぎ)な力を持っていました。
ある日のこと、和尚さんが突然慌てだし、「能登の本山(のとの ほんざん)(注1)が火事じゃ。はよう急いで水をまけ」と、怒鳴りました。小僧さん達は「どうしてここから遠い本山の火事がわかるのだろう。だいいち、ここから水をかけても届くはずもない」と思いましたが、和尚さんのけんまくがものすごいので、せかされるまま必死で、用水池の水をそのあたりに全部まき散らしました。

泉流寺の隆元和尚の挿し絵

その様子を見ていた村の人達は「和尚さんは妙なことをさせるものだ。気でも違ったのでは」と心配しました。
ところが、しばらくして、能登の本山から使いの坊さんが訪ねてきて、「先日の失火(しっか)の時には大変な念通力(ねんつうりき)に預かり、ありがとうございました。お蔭様で大事に至らずに済みました」と、深々とお礼を言って帰ったということです。
また、隆元和尚は人相(にんそう)を見て、その人の運命を当てることで評判(ひょうばん)が高かったそうです。良く当たるので、仕事にいきづまった人や、これから新しいことをしようとする人が相談に見えていました。
ある日のこと、和尚さんが門前を通りかかった人を呼びとめ、こう言いました。
「わしの見るところ、あなたの寿命(じゅみょう)はあとわずか。数日後が命の終わる時だから、その時の用意をするように」
いわれた男はびっくり仰天(ぎょうてん)。「何だって、わしの命はあとわずかだって。何の為に今まであくせく働いて来たんだ」と思いました。
やけくそになって、一晩考えたあげくに、その男は「よしっ、こうなったらいままで蓄えたお金を残らず使い果たしてやる」と、飲んだり、遊んだりと贅沢(ぜいたく)し尽くし、一文無しになって和尚さんが、予言した日を待ちました。
しかしその日が来ても、いっこうに死ぬ気配(けはい)はありません。翌日からも、一日、一日と待っていましたが、結局死にませんでした。
カンカンに怒ったその男は、隆元和尚にどなり込んで行きました。
「一体全体どうしてくれるのだ。命がないというから、蓄えたものを全部使い果たしてしまい、全くの貧乏(びんぼう)になってしまったのに、死なないではないか」
和尚さんは慌てず騒がず、「そなたの財産は、他人をだましたりして、ずるいやり方で蓄えたもの。財産をすっかり無くしたことが罪滅ぼしになり、そなたの命が救われたのじゃよ」と言ったそうです。

注釈
(注1)能登の本山(のとのほんざん)
能登は石川県の北部、能登半島地域の旧国名。曹洞宗の総本山・総持寺(そうじじ)が鳳至郡門前町にある。

挿し絵は、市内在住・在学の市民、児童・生徒から募集したものです。

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