宝塚の民話・第1集の8
小浜の首地蔵(こはまのくびじぞう)
雨上がり、緑の葉っぱから雨のしずくが、スルリとすべって落ちた。お日様を浴びて落ちるしずくは、虹色(にじいろ)にキラキラ輝(かがや)き、草むらはまるで宝石箱(ほうせきばこ)のようです。
毎朝、まぶしさと、ほほを伝(つた)う水玉(みずたま)に目覚(めざ)める私は、いつからか、なぜ自分がこのきらめく緑の世界(せかい)にいるのかわかりません。
今では「小浜(こはま)の首地蔵(くびじぞう)(注1)」といわれ、坂の上の高台(たかだい)におさまっていますが、昔(むかし)すごした緑の大地をよく思いだしますよ。
タンポポの綿毛(わたげ)の中でウトウト昼寝(ひるね)をした春の日、たまらなく気持ちが良かったなあ。
夏の昼下(ひるさ)がりにはバッタたちが、私の顔をすべり台にして遊(あそ)んだっけ。ちょっとくすぐったかったけれど、時間を忘(わす)れるほど楽しかった。なにより私のお気に入りは、虫達(むしたち)の合唱(がっしょう)を聞きながら、輝(かがや)く星空(ほしぞら)の星を数えたり、雲とかくれんぼする月を眺(なが)める秋だった。
そうそう冬の寒さはさすがにこたえたが、タンポポや蝶(ちょう)に逢(あ)える春を待ちながら、じっとがまんしていましたよ。
でもね、また春が巡(めぐ)ってきて、タンポポの黄色(きいろ)い花を見つめながら、ふんわり暖(あたた)かい風に包(つつ)まれて、気持ち良くウトエトしていたある日のこと、なにやら騒(さわ)がしい声で起(お)こされましてね。よくよく聞いてみると、「こんな地(じ)べたでは、お地蔵様(じぞうさま)がかわいそうだ。」と言っているんです。それで、その人たちの手でこの高台の上に上(あ)げられたのですよ。
おまけに屋根(やね)まで建(た)ててくれると言うのですが、なにしろ私は、草花に囲(かこ)まれ、光の中で風と戯(たわむ)れながら暮(く)らすのが大好(だいす)きなものですから、「どうか屋根で覆(おお)わないで。青空の中にいたい。」と一心に祈(いの)っていました。
すると、大工(だいく)さん達が次々(つぎつぎ)と病気になってしまってね、家を建てることをとりやめてくれたので、こうして雨のシャワーを浴(あ)びながら、暮(くら)していられるのですよ。
大工さん達には、本当に悪かったと思っています。そのお詫(わ)びという訳(わけ)でもないのですが、首から上の病(やまい)は、私の力でなんとか治(なお)してあげようと精(せい)いっぱい頑張(がんば)っているので、病に苦(くる)しんでいる人がいたら、私のことを伝(つた)えてくださいよ。
そして、元気(げんき)な君達(きみたち)も、一度(いちど)笑い顔(わらいがお)を見せに来てください。いつも、何か楽しい話ができるような気がしているんですよ。
注釈
(注1)首地蔵(くびじぞう)
首から上だけの地蔵。宝塚市小浜5丁目にある。
首から上の病に効くといわれる。地蔵とは、釈迦の付託を受け、釈迦の入滅後、弥勒仏が出生するまでの間、無仏の世界で六道の衆生を導く菩薩のこと。
挿し絵は、市内在住・在学の市民、児童・生徒から募集したものです。
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